特集 マレーシア:マルチメディアスーパーコリドー(MSC)(1)(シリーズ:不定期更新)
No.1 正式開業から1年・・・『サイバージャヤ』への立地は進んでいるか?(1)
2000.8.5
マレーシアが2020年の先進国入りを目指して押し進める国家の情報化とそれを通じた高度成長、その中でもクアラルンプール近郊の広大な敷地を大規模開発によって新情報都市群にするという、『マルチメディアスーパーコリドー(Multimedia Super Corridor:MSC)プロジェクト』は、計画段階から様々な賛否が飛び交う中、政府のイニシアチブで急速に進んできている。MSCの全体企画がマハティール首相の演説などで発表されたのが1995年前後であるにも関わらず、新行政首都『プトラジャヤ』と新情報産業都市『サイバージャヤ』は、ともに既に1999年6月に正式開業している。
それから1年。開業当初は公共交通手段もなく、まるで陸の孤島のようであったプトラジャヤ、サイバージャヤは現在どうなっているだろうか? 日本で新聞を見る限りでは「実際に拠点を構えた外資大手はNTT一社だけ」「IT人材不足ネック」(共に日本経済新聞2000年7月7日)といった論調が目立つ一方、日本のベンチャー企業が進出している等の記事も見られる(同5月17日)。
まずは現地を実際見てみなければならない。これまで進出企業に関する情報も様々なところから供給されているが、どの情報もかみ合わない。昨年時点でも進出企業は17社という記事から1社という記事まで、新聞やホームページを見ている限りでは基本的な情報すら正確に集まらない。また立地しているといってもどの程度の建物がどんな場所に立地しているのか、インフラの状況はどうか等、目で見て、そしてMSCの管理者である政府企業MDCだけでなく民間企業や計画に協力する大学人など、様々な立場の人から取材して、状況を把握する必要がある。
2000年8月4日現在の状況は右の写真のようである。
(下左)NTTコミュニケーション(株)の現地法人NTT
MSCのオフィス。和洋折衷のデザインで付近の風景とも調和し、中も快適そうだ。
(下中央)最近開業したバス停の入り口からサイバージャヤ中心部方向を望む。道路は開業前からかなりのスピードで整備されているが、まだ大半の建物、インフラが工事中とあって、通る車はトラックがかなりの割合を占める。計画ではこの通りがサイバージャヤの目抜き通りになるはずだが、人影は全くない。
(下右)大半の地点はまだ工事中。荒野が広がるといった感じだ。これでは立地が進んでいないと思われても仕方ないかもしれない。建設中のニュータウンということなのかもしれない。
公共バスも、クアラルンプール都心との直通バスは一時間に一本のみとアクセスもよいとは言えない(瀬田はタクシーで行った)。目抜き通りになる場所であっても、歩いている人はまばら、というより誰も歩いておらず、たまにいてもそれは確実に工事関係者だ。大体こんな暑い荒野など5分と歩けない。サイバーロッジ、MMU(マルチメディア大学)等、完成している施設も確かにいくつかあるが、それら同士は離れていて行き来に不便だ。第一企業らしきものは、NTTと、それにマレーシア政府の国策会社数社のマークの入った建物しか見えない。やはり新聞で見られたようにまだ殆ど立地はなされていないのか?。
しかし、その目抜き通り近くの2つの建物(「センチュリースクェア」)には、何か違う雰囲気が漂っている。もしMSCが単に日米欧大企業の子会社や下請け企業を集めるのではなく、ベンチャービジネス等地元に根付く中小企業の発展を目指しているとしたら、こうしたビルがインキュベータとなるはずだ。ここは、米NYのシリコンアレーのような人材や歴史的文化的財産には乏しいが、なんと行っても巨大な通信インフラがあり、近い将来は快適な郊外居住が保証されるだろう。(つづく)
(下右)センチュリースクェア。既に入居も始まっており、日系企業も入っている。建物は工場、事務所というより、新しい学校みたいな感じ、という話を聞いていたがその通りだ。
(下左)2棟がすでに完成しているセンチュリースクェアも、さらに増棟される様子。